貸倒引当金の計上と税効果会計の適用についての考え方

貸倒引当金は期末に保有する債権(売掛金や貸付金など)の将来の貸し倒れ額を見積もり、これを当期の費用として計上するために設定される引当金をいいますが、会計と税務とで計算方法や貸倒引当金計上の可否が異なります。簿記や会計では決算時に保有する売掛金などに対し貸倒実績率などを乗じて貸倒引当金を設定しますが、法人税の計算上ではそもそも貸倒引当金の計上が認められるケースは非常に限られています。
したがって会計上で計上した貸倒引当金については会計と税務とで差額が生じ、税効果会計の適用が必要となります。

ここでは貸倒引当金の計上について、なぜ税効果会計を適用する必要があるのかを設例を使って簡単にご説明していきます(基本的な考え方は貸倒引当金以外の一時差異も同じです)。

スポンサードリンク

貸倒引当金に税効果会計を適用した場合

たとえば会計上で計上した貸倒引当金1,000円について、税務上はすべて損金不算入となった場合(税務上認められる貸倒引当金の計上額が0円であった場合)を例に考えていきましょう。なお法人税率は40%とします。

この場合、会計上は以下のような仕訳を切り、1,000円の経費を計上します。

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金繰入 1,000 貸倒引当金 1,000

この1,000円は会計上は経費となりますが、税務上は経費となりません(損金とならないという意味で「損金不算入」といいます)。ここでこの会社の売上が3,000円であり、経費が上記の貸倒引当金繰入額以外にはなかったものとします。この時この会社の税引前当期純利益は以下のように計算します。

税引前当期純利益:売上高3,000円-経費1,000円=2,000円

いっぽう、上記の貸倒引当金の繰入額は税務上は経費(損金)となりませんので、税務上の利益(課税所得)は3,000円となります。ここで法人税率は40%ですので法人税の金額の計算と損益計算書の末尾は以下のようになります。

課税所得:売上3,000円-損金0円=3,000円
法人税等:課税所得3,000円×法人税率40%=1,200円
(損益計算書の末尾)
税引前当期純利益 2,000円
法人税 -1,200円
当期純利益 800円

会計上の利益は2,000円、法人税率は40%ですので、会計上の利益に対応する法人税等の金額は800円(=税引前当期純利益2,000円×法人税率40%)となるはずですが、
貸倒引当金が税務上は損金とならなかった(損金不算入となった)ことにより税務上の利益が会計上の利益より1,000円大きくなり、法人税の金額もこの1,000円に法人税率40%を乗じた400円だけ大きくなったため、上記の損益計算書の税引前当期純利益と法人税ととが対応しなくなっております。

税効果会計はこのような会計と税務との差額を調整し、損益計算書の税引前当期純利益と法人税等を対応させるための会計です。
上記の損益計算書の税引前当期純利益(会計上の利益)に法人税等を対応させるためには、税務と会計との差から乗じたこの400円を減額調整し、法人税等を800円にすればよいことになります。
ここで、法人税等を調整するために以下の仕訳を切ることとなります。

借方 金額 貸方 金額
繰延税金資産 400 法人税等調整額 400

法人税等を利益のマイナス項目(つまり費用)と考えた場合、ここでは法人税等を400円減額調整(費用をマイナス)するために貸方に法人税等400円の仕訳を切ればいいことになります。
税効果会計で法人税等の金額を調整する場合には「法人税等調整額」の勘定科目を使用しますので、貸方に「法人税等調整額 400円」と記帳します。
貸方に計上した法人税等調整額の相手勘定には「繰延税金資産」を計上します(法人税等調整額と繰延税金資産・繰延税金負債との関係については法人税等調整額の表示と仕訳の基礎も併せてご参照ください)。

この仕訳により法人税等の金額が以下のように税引前当期純利益2,000円に法人税率40%を乗じた800円へと減額調整されることになります。

税引前当期純利益 2,000円
法人税 (1,200円)
法人税等調整額 (-400円) -800円
当期純利益 1,200円

なお、会計上と税務上との差額が解消した時は上記の仕訳の反対仕訳をおこないます。この設例でいえば貸倒引当金を取り崩した際に、以下の仕訳を行います。

借方 金額 貸方 金額
法人税等調整額 400 繰延税金資産 400

差額が発生した際には会計上の経費が税務上の損金より1,000円大きくなっています。差額が解消する際には会計上の経費が税務上の損金より1,000円小さくなります(実際に1,000円の貸し倒れが発生した際、会計上は貸倒引当金を取り崩しますので新たな経費は生じませんが、税務上は貸倒引当金を設定していませんのでその時点で貸倒損失1,000円という経費が発生し、会計上の経費が税務上の損金より1,000円大きくなり、貸倒引当金設定時と反対の状況は発生しますので税効果会計上も反対仕訳を切ります)。

スポンサードリンク