現金主義とは(現金の出入りで経費や売上を計上することの是非)

簿記や会計の世界では、「経費はいつ計上するのか?売上はいつ計上するのか?」というのは非常に重要な問題となります。
この問題の一番簡単で明確な解決法としては、現金をもらった時に売上を計上し、現金を支払った時に経費(費用)を計上するという方法です。

このような考え方は現金主義会計(現金主義)と呼ばれます。

この現金主義会計では売上の計上は現金をもらった時点ですので、たとえば商品を販売して代金を後日貰う約束をした場合(いわゆる「売掛金の取引」の場合)、商品を引き渡した時点では仕訳は行わず、現金を受け取った時点で初めて売上を計上するための仕訳をおこないます。

1.1月1日に顧客に商品し、商品1,000円を本日中にお客さんへ引き渡した。なおこの商品の代金は1月31日に現金で受け取る予定である。1月1日の商品引き渡し時の仕訳を示しなさい。

借方 金額 貸方 金額
仕訳なし

2.1月31日に顧客に商品し、商品1,000円を本日中にお客さんへ引き渡した。なおこの商品の代金は1月31日に現金で受け取る予定である。1月1日の商品引き渡し時の仕訳を示しなさい。

借方 金額 貸方 金額
現金 1,000 売上 1,000

現金主義会計では現金の流れに着目し、現金を受け取った時点で初めて売上計上の仕訳を行います。したがって商品を引き渡した時点では仕訳は必要ありません。

現金主義会計は現金を受け取った時点で売上、支払った時点で経費(費用)を計上するという非常にわかりやすく、客観的にも確実な基準であるといえます。現金の受け取りや支払いがあれば、その売上や経費は企業にとっては確実なものであり、非常に安全性の高い方法であるともいえます。

しかし現在の制度会計ではこのような現金主義の仕訳はほとんどおこわなわれていません(上記の設例のような簿記の問題の解き方を思い浮かべてください。商品を引き渡した時点で売上を計上すると同時に「売掛金」という資産を計上しているはずです)。
ではなぜ現金主義は採用されないのでしょうか。

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現金主義のメリットとデメリット

現金主義会計では、現金の収支に基づいて収益・費用の認識を行うため、収益・費用の認識が客観的であり、また現金収支に基づく収益の計上は安全の高い収益認識が可能となります。
しかし、現金主義会計では以下のような問題点(デメリット)があるため現在の制度会計においてはほとんど採用されていません。

1.現在の企業取引は現金取引ではなく信用取引(売掛金取引や買掛金取引など)がその中心的な地位を占めていますが、信用取引において現金主義を採用した場合、実際の商品の販売時や役務提供時(収益獲得のために努力した時)と収益の計上時のズレが常態化してしまう。

2.現在の企業は固定資産や在庫などを多く保有していますが、現金主義では固定資産購入時や商品の仕入れ時などに購入金額の全額が費用計上されるため、例えば商品を仕入れた期間とその商品を販売した期間とにズレが生じた場合、企業がその商品を販売したことによりどれくらいの利益が発生したのかを決算書から直接的に把握するのが困難となってしまいます。
現金主義による決算書では企業の適切な収益力を把握することができず、期間比較や他社比較が不可能となってしまう

3.現金の収入時期や支出時期を意図的に調整することにより利益操作が可能となるおそれがあります(現金の入金日を遅らせることにより利益を翌期以降に繰り延べることが可能となるなど)。

現在の企業においては、信用取引や固定資産・在庫などの存在を無視することはできません。現金主義会計のもつ簡易さや安全性・確実性などを考慮しても現在の企業に現金を採用することは望ましいものとは言えません。したがって現在の制度会計では現金主義は採用ほとんど採用されず発生主義を基本として成り立っています。

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